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2017/03/31

栃木県那須高原の高校山岳部雪崩事故

 痛ましい事故がまたも起きてしまった。栃木県の高校山岳部の合同春山合宿で、48人の生徒や教師が巻き込まれ、そのうち8人が死亡した。

 NPO法人「日本雪崩ネットワーク」による過去25年間(1990/91-2014/15)の統計(http://www.nadare.jp/assets/cms/Fatalitydata_25years.pdf)によれば、日本国内の平均で1シーズンあたり事故5件、犠牲者9人とのこと。大きな事故が起こればそれで跳ね上がるのだが、1件の事故で8人が亡くなるというのは大変な惨劇である。ちなみに統計の25年間のトータルで、栃木県の雪崩による死者は4人。
 学校や県教育委員会側のコメントは、「経験豊富な引率教員が安全だと判断した」とのこと。要するに「想定外」と言いたいのだろうが、こういう場で使うことに悪いイメージが付きまとうようになってしまったのであえてその言葉を避けているような印象だ。
 また、一言で経験豊富と言っても、何の経験が豊富なのか、という疑問が付きまとう。
 ちなみに、被害者の出た大田原高校のWebサイトの山岳部のページ(http://www.tochigi-edu.ed.jp/otawara/nc2/?page_id=92
)をみると、以下の通り。

----------------------(引用開始)----------------------
県大会
インターハイ予選会(第1位のみインターハイ出場) 8連覇中
関東大会予選会(第6位まで関東大会出場) 3連覇中
新人大会(上位大会なし) 3連覇中
-----------------------(引用終)-----------------------

 最新の情報では、県大会9連覇中とか。一般的なレジャーとしての登山という面だけではなく、大会を目指す体育会系の部活という面も併せ持っている。しかも県内での強豪校。大会出場を見越した登山競技の比重が大きかったのではないか。ちなみに、山岳部のページにこんなことも記述されている。

----------------------(引用開始)----------------------
夏山合宿
平成27年 白馬岳(2932m)第26位  富士山(3776m)日本一
平成26年 槍ヶ岳(3180m)第5位 北穂高岳(3106m)第9位 富士山(3776m)日本一
-----------------------(引用終)-----------------------

 合宿で訪れた山が日本で何番目に高いかということまで書かれている。この原稿を書いた人は、おそらく顧問の教師だろうが、順位へのこだわりが強いように思われる。などというのは穿ち過ぎた見方だろうか。

 ところで、インターハイの登山競技とはどのようなものか。新潟県央工業高校山岳部OB会(http://mtob.sakura.ne.jp/pages/ih/index.html)のサイトに次のように記されていた。

----------------------(引用開始)----------------------
1.安全に登山することのできる体力と歩行技術がある「行動」…40点
2.しっかりとした装備を準備・携行する「装備」…10点
3.テントの設営などを協力して効率よくできる「設営・撤収」…10点
4.カロリーなどを考えた献立で炊事する「炊事」…5点
5.天気に関する知識の習得・天気図を書く「気象」…7点
6.登る山について知る、地図を読むことができる「自然観察」…8点
7.計画を立てる、事後に役立つような行動記録をとる「計画・記録」…10点
8.けがや病気の場合の救急の知識、対処法、医薬品を備えておく「救急」…5点
9.自然に対するマナー、仲間との協調性を持っている「態度」…5点
-----------------------(引用終)-----------------------

 いわゆる「山岳レース」ではなく、総合的な観点で評価されるようだ。審査員は出場者に同行したり、待ち受けたりして、安全で的確に行動できているかを常に監視しているとのこと。また実技だけでなく、筆記試験もあるそうだ。
 ただし、これがは競技であり実際の登山と全く同じということはあり得ないと個人的に思う。強いて言えば、受験英語と実用英語は必ずしも一致しない(無関係ではないが)、と同じようなことがあるのではないか。
 例えば、3.のテントの「設営・撤収」は、同じテントで競わねば競技にならないわけで、当然最新モデルであるわけもなかろう。「時代遅れのテントをストップウォッチでタイムを計られながら、しわなくきれいに張ることを競った」という経験者のコメントもある。
 さらに、高校生が行う競技であるので、もともと安全が確保された状況で行われていることは間違いない。
 そして、上記登山競技は夏山でのもので、雪山では行われない。夏山と雪山は別物で、特に雪崩などは独自の知識や技術(危機管理など)が必要である。経験豊富な顧問は、雪山の経験も豊富だったのだろうか。

 ニュースを見て驚いたのは、「周囲には埋まっているとみられる数人の顔や手足が雪の上に出ているのが見えた」という那須山岳救助隊の副隊長のコメント。雪崩事故が起きてから通報までに1時間ほどがかかり、救助隊が到着したのはさらにそのあと。雪崩事故での死因で最も多いのは窒息死。前出の日本雪崩ネットワークの講演「アバランチナイト」によれば、死因の65パーセントが窒息。さらに埋没時間15分で生存率80パーセント、30分で50パーセント。救助隊が来るのを待っていてはだめで、即座に自分たちで救助活動を行う「セルフレスキュー」が必須である。
 ニュース等では、ビーコン等の装備を持っていなかったこととについて批判が集まっているが、それ以前の問題である。顔や手足が出ていればビーコンはいらない。それでも掘り出していないのだ。

 ところで、一言で窒息といっても雪の中に空気が存在していないというだけではない。たまたま顔の周りに空洞ができて空気が存在しても、胸や腹を圧迫されるとあばらの筋肉や横隔膜で肺を膨らませることができず窒息する。腹が出た人は前かがみになると息苦しい、ということもこれにあたる。
 ちなみに、昨年1月のNHKスペシャル「震度7 何が生死を分けたのか〜埋もれたデータ21年目の真実〜」では、阪神淡路大震災の犠牲者のうち多くは倒壊した家屋や家財道具で胸や腹を圧迫された窒息死であった、とのこと。ちなみに「もしものとき.com」(https://moshimonotoki.com/item1341/)のサイトにそのことが記述されている。

----------------------(引用開始)----------------------
死亡原因は窒息死だった
 地震発生から1時間経つと、当日死亡者の約75%にあたる3,842人が死亡しました。その死因は7%が焼死、90%は倒壊した建物の下敷きとなった圧迫死で、さらに検案書の記録から詳しく調べると、即死を意味する圧死は8%にすぎず、61%にあたる2,116人は窒息死でした。
-----------------------(引用終)-----------------------

 大雪のためあらかじめ計画していた那須岳への登山を中止せざるを得ず、だからと言って何もしないのではなく、何か代わりのことを、と考えたのだろう。生徒だけでなく合宿への費用負担を含めた保護者のサポートに対して答えなければならないという思いがあったのかもしれない。
 ただ、指導経験豊富な教師が、雪山に対するリスクマネジメントやセルフレスキューの知識や技術も豊富だったかどうかはわからない。

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コメント

 自分は高校時代山岳部で、その頃は知識がほとんどなく山に入っていたと思います。自分が今こうしているのは幸運の積み重ねかもしれません。こんな悲惨な事故は本当に悲しいです。
 山に行くことはスポーツだけど競技ではない、と昔から思っていたので、インターハイや国体の予選すら出たことはありませんでしたし、顧問からすすめられても断っていました。
 山に何回も行って「山慣れ」することはとても大切ですが、雪崩の前には全くの不十分です。危険予知を知識と五感で切り抜けなければなりません。危険なところをスピードを上げて通過するか、迂回するか、引き返すか、選択しなければならないことも結構あります。
 競技ではないけど、体や技術だけでない知識やメンタルなところまで要求される難易度の高いスポーツだと思います。

投稿: すう | 2017/04/01 12:23

 セルフレスキューに関してですが、こんなことを聞いたことがあります。アバランチナイトだったかな。
 雪崩に巻き込まれ埋没した人が、仲間により助け出され、すぐにまだ埋没している仲間の捜索・救出活動に加わった。
 こういうことが当たり前だと思っていました。埋没したことがない私にはどれほど精神的なショックを受けるのかわかりませんが。
 上記の人が強いのかもしれませんが、やはり今の山岳部の高校生は温室育ちという面があるように思いました。
 しかし、こういう事故が起こってしまうと、雪山のイメージが悪くなってしまいます。掲示板サイトやSNSで、知識のない人が好き放題書いているのは放っとけばいいとして、報道機関までもが誤解したまま発信しているのが嫌ですね。

 「雪崩に巻き込まれないために 対策装備の「三種の神器」」

 なんていうタイトルのニュース記事がありました。アバランチナイトでおなじみの雪崩ネットワーク出川あずさ理事のコメントをもとにした内容です。「三種の神器」とはビーコン、プローブ、スコップで、これは巻き込まれてしまった後に活躍する道具です。出川さんはそれらの装備の必要性ともに、巻き込まれないために気象条件や地形・植生に注意して行動すること、を述べていました。
 クルマにスペアタイヤを積んでいるのは(最近は積んでいないクルマもあるようですが)、パンクを防ぐためではありません。パンクした後のためです。
 それが上の記事のタイトルでは、リスクマネジメントとセルフレスキューが入り混じっています。この記事を書いたライターは、出川さんの言っていることをよくわかっていないのか、自数制限のためあえてそうしたのか。

 また別の記事では、「アイゼンすら装着していなかった」とありました。新雪のラッセルにアイゼンは不要でしょう。

投稿: はいかい | 2017/04/01 19:42

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