「播・但・丹」三国巡り4つの峠コース
兵庫県の中央部、かつての播磨、但馬、丹波の国境が集まる三国岳の周囲を自転車でめぐる。
3つの国境に対し、峠は4つ。うち3つは国境の峠だが、あと一つ播磨の国の中にある市原峠。多可町と神河町の境界の峠で多可町側からだとこのコース最大の標高差となる。過去に5回ほどこのコースを走っているが、いずれも多可町を周回の起点とし、最大の峠を最初に越えていた。今回は、神河町を起点とし、最後に市原峠を越える。
クルマでのアプローチは、丹後から但馬を経て朝来市の生野銀山近くから県道627号白口峠を越えて神河町新田へ。白口峠の道は細い。自転車では何度も超えているが、自動車では初めて。
細い急坂を降りたら作畑集落。越智川沿いの道に突き当たり左折し、川をさかのぼる。ちなみに県道は右折。作畑の隣、新田集落を超えると、「新田ふるさと村」。キャンプ場などの野外活動の施設だ。それを越えたら道路は、「林道新田黒川線」となる。施錠されていないゲートが閉じられ、「鹿・猪進入防止柵、お願い、開けたら閉めてください」と記されたプレートが貼られている。そしてゲートの手前に「通行止」の看板。この林道が通れるかどうか心配だった。だめならコース変更するつもりで、クルマでここまで来たのだ。で、結論は「GO」。通行止めは、整備されず荒れ放題だから。一般の車両、つまり自動車は通れなくても、自転車ならどうにでもなる。自己責任で。自転車で通れないのは、道路工事や植林の切り出し作業などで道が独占されている場合。そういう場合は、クルマの出入りがあるため、日中はゲートが開かれていることが多い。閉門しているということはかえって安心だ。
クルマをUターンさせ、新田集落内から分岐する市原峠への道へ。こちらにも「鹿・猪進入防止柵」があるが、ゲートは開いている。でも通行止めの表示はない。少し進んで、事前にGoogleマップで調べていた道路わきスペースにクルマを止める。
自転車を準備してスタート。今日の自転車は、ランドナー。ダート区間を想定して、ブロックタイヤのホイールを装着している。新田ふるさと村を過ぎ、「鹿・猪進入防止柵」を通り抜けて「林道新田黒川線」へ。ふるさと村の手前からは、植林が伐採されむき出しとなった山肌が見えていた。そこから切り出されたと思われる丸太が積まれた現場を通過して、山の懐へ。しばらくの間は舗装道路。
すぐに上り勾配が増し、路面に土砂が積もった状態となる。この先のダート区間から流れてきた土砂だ。毎年来ているが、今年はずいぶん手前まで、そして分厚く堆積している。初夏、梅雨の時期、夏の台風と今年はずいぶん大雨が降ったからかも知れない。
そして、ダート区間へとやってきた。当然ながら、荒れている。路面に溝ができ、細かい土が流れた後にこぶし大の石が残っている。要するにガレている。溝が埋め戻されているところもあるが、細かい土で埋められているので、また大雨が降れば水に溶けだすように流れてしまうだろう。
ブロックタイヤのおかげでそれなりにグリップしてくれるが、急勾配のガレ場に苦戦する。乗車ができなくなり、押して上る。周囲の林は伐採され、山肌の露出した景色の中を行く。登っていくと時折舗装路面の区間が現れる。なんと走りやすいことか。でもまたダートに戻り、これを何度か繰り返す。
盛り土で埋め尽くされた谷を回り込む。数年前の土砂崩れ現場。盛り土の下方には土石流とともに流された木々が積み重なり、生々しい。また、山側の法面から崩れた土砂が道路に堆積しているところもある。こうした山間の林道の維持は容易ではない。
盛り土地点から一登りで峠へ。「歸去来」と彫られた石碑が立つ分岐に到着。ここが峠。つまり、播磨と但馬の国境。南側に、今まで登って来た谷と折り重なる山々がブッシュの合間に見渡せる。標高770mで、新田からは標高差300m程登ったことになるが、荒れた路面に苦労してそれ以上の達成感を感じる。
さあ、但馬の国へと下ろう。道なりは分岐の右側だが、すぐ先に通行止めのバリケード。道幅が狭くてさらに雑草に覆われた左の道が正解だ。分岐が峠、と記したが、ほんの少しだけ登ってから下りとなる。するとすぐに路面が荒れてきた。溝が掘れ、さらにガレている。山側の法面が崩れ道幅のを3分の1くらいが埋まった区間が続く。こんなところで転倒して行動不能になっても、誰も助けに来てくれない。慎重に行く。
谷底に降り、沢沿いを行くが、まだ路面は荒れたまま。コンクリート舗装の路面が現れると走りやすさに安堵する。でもまたダートに戻り、緊張の走行。
植林の中に入ると、勾配が落ち着くとともに路面状況も改善する。でも、落石や木の枝が散らばっているので、気を抜くわけにはいかない。
掘り返された大木の根っこ部分が2つ、道路の真ん中に置かれている。そこは分岐点で枝道の先には祠というか小さな社があるようだ。大木のなっこは車止めバリケードらしい。
たまに現れるガレ場に苦労して進んでいくと、数台の重機が置かれた作業現場から道路を隔てた沢側に、テラスというかウッドデッキが設けられ、3つほどいすが置かれていた。山仕事の休憩スペースだろうか。
ダートながら路面状況が格段に良くなった。里が近い。通行止めの看板を背後から超え、たどり着いたのは、梅ケ畑の集落。路面も舗装となった。
梅ケ畑を初めて訪れたのは、1997年9月。今回と同じように、林道新田黒川線を越えてここに降り立った。26年前にパソコン通信にあげた記録に、「廃村」と書いている。当然今も人の気配はなく、崩れかけた廃屋が見られる。中には、軒下に雑巾のようなものがかかっている家屋もあるが、家主がたまに掃除に来ているのかもしれない。
ちなみに26年前は、林道新田黒川線と、今日クルマで越えてきた白口峠で、市川本流の谷と支流の越智川の谷にまたがる周回コースを走った。当時は、白口峠も未舗装で、MTB2台でのツーリング。舗装されない方の道は荒れ果てていき、麓の廃村とともに風化が進んでいくようだ。
梅ケ畑を過ぎると丁字路に突き当たる。これを左折。ちらほらと民家があるのは、高路の集落。こちらは何となく人が住んでいる雰囲気。
そしてまた丁字路。国道429号だ。これを右折。ずっと下りだったが、ここからは登りに変わる。脇を流れるのは瀬戸内海にそそぐ市川。日本海に面した但馬の国にあって、朝来市の一部、旧生野町だけは中央分水界の太平洋側(瀬戸内海側)に位置している。
すぐに国道は市川本流と別れる。市川沿いに直進すれば黒川ダム。国道は右折で青垣峠へ向かう。
大外の小さな集落を越え、緩やかな登りで青垣峠へ。登り標高差も100m程度。ここが但馬から丹波への国境の峠。標高570m。
但馬側はセンターラインこそ引かれていないが拡幅された道だが、丹波側は細く曲がりくねった道。いわゆる酷道である。そして、但馬側よりもかなり長い。クルマはあまり通らないが、でも慎重に。停止して写真を撮っていると、ピンクの西宮ナンバーを付けたスーパーカブが追い越していった。荷物を満載している。少し先で路肩にスーパーカブが止まっていた。ライダーは川に降りている。休憩か、釣りか。
ちなみに道路沿いを流れているのは、瀬戸内海の注ぐ加古川の上流部。丹波の国は中央分水界をまたいでいるが、本日の走行エリアは、瀬戸内側。
大名草(おなざ)集落まで降りてきた。標高は200m弱。ここで国道427号へと突き当たる。これを右折。国道429号から427号へ。番号は2番しか違わないが、道路状況は雲泥の差。久しぶりのセンターライン。いや、今日のコースで初めてか。丹波と播磨の国境、播州峠へ向けての登りとなる。
大名草の集落を過ぎるとすぐ山間へ。最近できたグランピング施設の前には派手な服を着たたくさんの人だかり。近づいていくと、縦列駐車された数台委のクルマの前に立つ人達のそばに自転車も見えた。サイクリストの集団だった。もちろん、みなロードレーサー(ロードバイク)。
播州峠は、トンネルで越える。旧道もあるが、そちらを通ったことはない。なかなかそんな余裕はない。大名草からの標高差は、150m程。
トンネルを抜け、播磨の国へと戻ってきた。播但丹三国めぐりコースを過去に走った時は、いずれもここを下った先の道の駅「杉原紙の里・多可」を起点・終点としていたので、播州トンネル過ぎたらもうあとは下るだけ、という開放感に浸っていたのだが、今日はまだこの日一番の標高差の登りを残しているのだ。
とりあえず、道の駅杉原紙の里・多可で小休止。下りはもう少し続き、山里が点在する景色から、少しにぎやかな集落へと入ったあたりで、国道から右折して、山へと向かう。千ヶ峰が見える。その名の通りの標高1000m峰。その向かって右、つまり北側の稜線にある市原峠を越えないといけない。田んぼの畔には彼岸花が残っている。もう10月中旬なのに。
市原集落を抜け、山間に入る。植林の作業をしているようで、重機の音が聞こえる。
その作業現場の脇を抜け、進んでいくと、道の真ん中に通行止めの看板が見える。
えっ!
民家がなく、行き止まりの山道では、植林の作業中、通行止めにされる場合がある。無断で侵入して、ここは我々の縄張りだ、とばかりに追い払われたこともある。ここを通り抜けることができなければ、来た道を引き返さねばならないということか。荒れた林道新田黒川線を日が暮れてから通らねばならない。ならば、ここで夕方まで待ち作業が終わるのを待った方がいい。しかし現在15時。2時間は待たないといけない。今の時期、もう暗くなる時間だ。ライトを持ってくればよかった。
などと考えながら近づいていくと、通行止めの原因は植林作業ではなかった。「この先で土砂崩れが発生し、通行できないため、登山道へ行けません。復旧の目処は未定です」とラミネート加工された紙の御触書が結束バンドでバリケードにぶら下げられている。登山道とは、千ヶ峰の登山道のことだろう。市原峠が登山口だ。また、現場の写真もある。山側の法面が崩れ道を完全にふさいでいる。
よかった。これなら自転車を担いで乗り越えられそうだ。ラミネート加工はまだ新しく、土砂崩れは今年8月の台風か、梅雨の時期あたりだろう。ならば、まだ復旧工事は始まっていないことは間違いない。こういう緊急性のない道の復旧は、予算がついてから。つまり翌年度になるのが当たり前だ。
安心して登りにかかる。クルマが来る心配がないわけだ。まあ、もともとクルマがほとんど通らない道ではあるが。ただし、登りは長い。麓の市原は標高210m。市原峠は740m。標高差は500mを越える。と言って、特別大きな峠というわけではないが、すでに3つの峠を越えてきているので結構きびしい。ついでに腹も減ってきた。重機の音が鳴り響いていた植林作業現場がブッシュの隙間から見下ろせる。
前方で何か動くものが。シカだ。2頭は林間に消えたが、1頭が道の真ん中に佇みこちらを見ている。立派な角をいただいた牡鹿だ。
しかしなかなか土砂崩れ現場は現れない。水の乏しい稜線付近でなく、山に降った水が集まってくる麓の方が、土砂崩れの可能性が高いように思うのだが。
下方からエンジン音が迫ってくる。通行止めのはずなのに。向こうも誰もいないと思っているはずだから、警戒して、道幅の狭いところで路肩によって待ち受ける。やってきたのは空荷の中型トラック。
あれーっ、通行止めではないのか。
そんな疑問を感じながら登っていく。その先に枝道がいくつもある。植林の作業道だ。だが、先ほどの中型トラックが通れるようなものではないように思われる。
20~30分登ったら、今度は上方からエンジン音が聞こえてきた。先ほどのものと思われる中型トラックが荷台に丸太を積んで降りてきた。この先のどこかに作業現場があるようだ。
はるか上方、稜線近くに道が通り、その道沿いに丸太が積まれている様子が見える。まさかあそこまで道は通れるのか。峠のすぐ手前のはずだ。
さらに登っていくが、いっこうに土砂崩れ現場は現れない。とうとう道路わきの広場に丸太が積み上げられた作業現場に到着。無人の重機も置かれ、先ほどのトラックはここで丸太を積んで引き返したものと思われる。
そして標高は700mに到達し、峠は目前だ。なのに土砂崩れはない。植林の業者が自力で土砂を撤去してしまったのだろうか。
そんなことを思っていたら、突然目の前の道がふさがっていた。崖が崩れて完全に道を塞いで入れ。麓のバリケードの写真の通りだ。その向こう側の路盤は崩れていない。大丈夫、乗り越えられる。
自転車を担いで、一歩一歩慎重に歩を進める。足場が悪い。過去にこういうケースは何度か経験している。中にはしっかりとした踏み跡がついていることもあった。
崩れた岩や土砂を乗り越えたら、自転車にまたがって峠を目指す。
通行止めの看板を背後から超えて峠へ。なんと土砂崩れ現場から峠までは300m位だった。誰もいない。展望はいまいち。もっと手前の方が麓が見下ろせたのだが、なんだか今日は景色を楽しむ余裕がなかった。
もうあとは下るだけ。初めて市原峠を越えた2007年には、神河側はダートだった。今は、舗装。下りはあっという間。
10月中旬、11;30~16;30、約45.6km
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